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updated 2014-06-30

 液晶やブルーレイの技術が日進月歩で進化したために、自宅に居ながらにして映画のソフトを精密な画像で鑑賞するのは当たり前になってきました。しかし、1895年にリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明して以来、映画の本質は「スクリーンへの投射」というシステムであり、それはいまも変わりません。やはり映画は映画館で、匿名の観衆に身を紛らせながら見るべきものだ、と僕は思います。加えて、一映画ファンとしては、わざわざ電車に乗って、大繁華街によそゆき気分で特殊な体験をしに出かけて行くのではなくて、ふらりと普段着で立ち寄れる劇場が都市のあちこちに、できれば徒歩圏内に遍在しているのが望ましい。そういう意味で、バウスシアターは僕にとって、まさに理想的な映画館でした。

 1993年に久我山に移り住み、その後2005年に吉祥寺に引っ越して、その間ずっと通い続けていたので、バウスシアターとの付き合いはもう20年以上になります。僕はスクリーンと自分の間に他の観客が入り込まない最前列で映画を見るのが好きなのですが、他の映画館では往々にして、スクリーンと最前列の席の距離が近すぎて、画面が歪んだり、スクリーン全体を視野に収めきれなかったりする。その点、この劇場のホール1は、ライブハウスとしても機能するようにステージが設けられているので、最前列とスクリーンとの距離がちょうどいいんです。もちろん映写も非常に優れているし、音響設備も素晴らしい。初めて『マトリックス』を見たのはシアター1の最前列でしたし、爆音上映で『パレルモ・シューティング』を体験したのも忘れられない思い出です。最近では『それでも夜は明ける』を見に行きましたが、こうした“つい見逃していた気になる作品”を短期間であれ弐番館的に上映してくれる、貴重な劇場でもありました。閉館が残念でなりません。(談)

松浦寿輝